薄明光線

エッセイテイストな読み物。週一くらいの頻度で更新します。僕の話、時々僕ではない誰かの話。ささやかな楽しみにしてもらえたら幸いです。

2018-01-01から1年間の記事一覧

サンタの夢を終える時

幼稚園生くらいだったと思う。僕はサンタクロースをあまり信じていなかった。 クリスマスイブの夜中に目が覚めた。うちの両親は父の仕事の都合で就寝が遅かったので、リビングのある方の襖の隙間から明かりが漏れていた。時計を目をやると朝まではまだまだ遠…

Well, she’s walking through the clouds.

同僚の男が見せてきたスマホの画面の中で、小ぶりではあるが形の美しい女性の乳房がゆっくりと揺れていた。カメラが女性の顔の方に向けられ、一瞬だけ映り込んだ顔は見覚えのある顔だった。彼女はカメラに気づくと、すぐに手でレンズを覆い隠した。そこで動…

【映画 感想】「ボヘミアン・ラプソディ」

※2018年公開映画「ボヘミアン・ラプソディ」についてのネタバレを含む内容があります。 12月某日、20代として過ごす最後の夜、特に何かをするつもりでもなかったのだが、仕事の帰りを共にした同僚が、20代最後に何を食べるのか、何をして過ごすのかなど、妙…

【映画 感想】「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」

此の所の休日は、宛てもなく散歩に出かけて要らぬ出費をするのも癪なので、自宅でビデオオンデマンドを楽しんでいる。 この日はトップ画面に表示されたという気まぐれな理由だけで「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」を観た。何度も観た作…

【2】眠れない夜に

彼女とはたまたま通勤のルートが同じだった。 今までの生き方を捨て、新しい職場で出会った彼女は、僕より一回り近く若く、華奢な女性だった。 たまたま通勤のルートが同じだという理由だけであったが、無理のない程度に待てる日はお互い時間を合わせて一緒…

チバよ、あの場所へ連れてってくれないか

10月31日、職場の話の合う仲間内で集まり焼鳥屋で酒を飲み交わした。良い肴となる話題もあり、飲み過ぎる事もなく心地が良い程度に酔っていた。 一番終電が早いものの帰宅に合わせて清算し店を出て、乗り換え駅である日本橋駅で解散した。 まっすぐ帰ること…

家(うち)に帰ろう

小学生の時に母から言われていた門限は"暗くなるまで"と、とても曖昧だった。 冬が迫り陽が落ちるのが急に早まるこの季節は、頃合いを読み違えて深夜と変わらぬような暗い道を帰らねばならない事があった。まだ10歳やそこらの頃だ。そんな時は不安な気持ちや…

【3】ライク・ア・ローリングストーン

(「ライク・ア・ローリングストーン」は続き物として書いている為、「【1】ライク・ア・ローリングストーン」から読む事をオススメ致します。) 7月が終わるまでは毎日小学生グループが引っ切り無しにやってくるので、似たようなルーティンが続いた。 ホテル…

【2】ライク・ア・ローリングストーン

(「ライク・ア・ローリングストーン」は続き物として書いている為、「【1】ライク・ア・ローリングストーン」から読む事をオススメ致します。) 初日の仕事は早朝6時に離れのキャンプ場で開始だった。 キャンプセンターと呼ばれる、来客の受付や備品の貸し出…

Don't stop me now

売れないバンドマンでフリーターだった頃、友人の運転で当時つるんでいた友人グループを乗せて深夜から朝日が出るまで何度も車を転がした。 ただ車輪を転がしているだけなのに、室内でただ座って話すよりも何故か会話が弾む。ドライブとは不思議だ。 カース…

【1】眠れない夜に

ひとりの男の部屋に上がり込むひとりの少女。付き合うという言葉でふたりを結びつける事のないまま関係が始まった。 ふたりは体を重ねる事なく初めは友達として、泊まるというよりは寝ずに居座り続ける日々で、曖昧に曖昧に関係は深まった。 2本並んだ歯ブラ…

大人になんてなりたくなかった。

大人になんてなりたくなかった。 だからせめて好きな事をして生きていきたいと考え、将来の夢は漫画家やらミュージシャンやら具体性に欠けるものばかりであった。 しかし、今思うと私は大人になりたかったわけではないのだろうと思う。 酒で人格の変わる父と…

秋の夜長、ジントニック 550円

まだ自分が専門学校生の時、兵庫の加古川から大阪の学校へ通うひとつ歳上の先輩と付き合っていた。あまえたで、どちらかと言えば妹気質な女性。この世代ではありがちだが、酷く心を落としていて、正式に医者に解離性同一性障害と診断された本物の二重人格だ…

【1】ライク・ア・ローリングストーン

23歳の夏、僕は父親に実家を追い出された。 持てるだけの私物をリュックに入れて家を出た。 その頃、僕は気を病んでしまい、バイトの面接に受かっても1ヶ月も続かずに転職を繰り返し、実家へ満足に生活費を入れる事もできなくなっていた。 その頃の父親との…

季節外れの春の話

小学生の頃、転勤族の女の子を好きになった事があった。 彼女は小3の春に東京から僕の家の徒歩10秒のところに引っ越してきて、小4が終わる春にまた東京に戻っていった。 天真爛漫で人見知りもしない子で、物怖じもしない挙動からか、同性から敵を作りやすい…

優しい季節

夏とも秋とも取れぬ、心地良い程度に冷えた夜風が吹くこの時期が大好きだ。 仕事が終わって家に戻ると、常用していないクセにこの時期のためだけに買ったタバコを持ってベランダに出て一服するのが季節限定の日課となる。 僕の家は大阪市の北側にあり、ベラ…

雨に唄えば

音楽専門学校でギターを専攻していた。 その頃の名残からか、30歳近くなった今でも当時好きだったアメリカやイギリスのブルースロックやサザンロックを好んで聴く。 こういった話題は歳の近い同僚や友人達にほとんど理解されない。 同年代から理解され難い趣…

隣の席の女の子

「ドラクエが好きなんですか?」少し不安げに見える華奢な女の子はそう言った。初対面の女子に唐突に話しかけられて、僕は中1の男子らしく硬直してしまった。なんでドラクエ好きがわかったのか?これは筆箱にバトルエンピツが入っていたので後々合点がいっ…

後部座席の優しい宇宙

確か6歳だか7歳頃の日曜日、母と仕事が休みの父と私の3人、車で大型ショッピングモールへ買い物に出かけ、ファミレスではステーキを頬張り、はしゃぎ疲れて帰る家路。車の後部座席でひとり横になり、エンジンの振動に揺られながら、寝つくか寝つかないかの間…

あと3ヶ月もしたら30歳だ

あと3ヶ月もしたら30歳になる。 よく聞かれるのは、“30代になりたくないか?”だ。答えとしては、“なりたくは無いが20代に未練があるわけでもない“といったところだ。音楽の専門学校を卒業した後は、事業の失敗、親に手持ち僅か3円で実家を追い出され…