薄明光線

エッセイテイストな読み物。週一くらいの頻度で更新します。僕の話、時々僕ではない誰かの話。ささやかな楽しみにしてもらえたら幸いです。

大人になんてなりたくなかった。

大人になんてなりたくなかった。


だからせめて好きな事をして生きていきたいと考え、将来の夢は漫画家やらミュージシャンやら具体性に欠けるものばかりであった。

しかし、今思うと私は大人になりたかったわけではないのだろうと思う。

酒で人格の変わる父と、そんな夫であるにも関わらず依存していた母からは大人になる醍醐味を全く感じる事ができず、大人になる事は不安ばかりだった。

そこから好きな事をしようと、フリーターをしながら音楽活動をしたり、時には胡散臭い事業に手を出したりと無茶ばかりした。


今では正社員とは行かずとも、契約社員を食いつないで一人暮らしも3年が経とうとしているが、大人としての生活も満更ではない。

余裕は無いので計画は立てられないが、所帯を持つ事にも興味はある。大きな夢は無くとも、日々の飯が美味く、テレビ番組がおもしろければ満足である。


日本をぐるぐると周ったり、アメリカ横断旅行などと各地の絶景を目にしてきたが、目にするたびに思ったのは意外にも"次は誰かが隣で一緒に見てくれるといいな"であった。

人との関係をできるだけ絶ってきた自分の中から湧き上がったこの感情に戸惑うとともに、人間らしさを取り戻したような安堵があった。


大きな夢を見なくなったのは、結局のところ軸として大切な人がいないと、富も名声も僕を満たす事は無いのだろうという気づきからである。

両親や祖父母への愛情が気薄な私は外から新しい家庭を作るしか無い。

だからすでに伴侶のある人、また、両親を大切にしたいと思えている人は是非とも孝行してほしい。


柄にも無いが、かつて子供だったみなさんの人生が良いものになる事を祈っている。