薄明光線

エッセイテイストな読み物。週一くらいの頻度で更新します。僕の話、時々僕ではない誰かの話。ささやかな楽しみにしてもらえたら幸いです。

Don't stop me now

売れないバンドマンでフリーターだった頃、友人の運転で当時つるんでいた友人グループを乗せて深夜から朝日が出るまで何度も車を転がした。

ただ車輪を転がしているだけなのに、室内でただ座って話すよりも何故か会話が弾む。ドライブとは不思議だ。

カーステレオからは運転する友人のスマホ内に組まれたプレイリストからランダムに曲が流れた。

 


眠気も出始め、そろそろ帰ろうかと家のある方角へと車を向かわせる。朝日が顔を出すと、静かだった世界が一斉に目を覚まし動き始めた。

 


世界が目覚め、人々が出勤のために街へ向かって車を走らせるのを横目に、僕たちはその反対車線のかなり空いた道をスイスイと逆走し、眠りにつくために自分たちの住むベッドタウンへ向かった。

 


社会に溶け込む事ができず、安定した職を持つ多くの人々とは異なる生活をし、そういった事に対しての不安な気持ちには目を向けないようにしながら、叶う確証のない夢を見ていた。

そんな中、カーステレオから流れたのはQUEENの"Don't stop me now"だ。

徹夜でドライブをしてハイになっていた事もあってか、運転席の友人が歌い出し、勢いに乗せられ僕たちは車内で熱唱した。とびきり大きな声で。とびきりの笑顔で。歌い出したの事に特に理由はなかった。

曲から生み出される活気と、何も無い僕らに見返りを求める事なく照らし続ける朝日が眩しかった。未だ何者とも名乗れない自分が生きている事が申し訳なかったが、何も無い僕たちにも朝日は平等に優しく照らした。

 


"Don't stop me now"と何度も叫んだあの頃、僕たちは墜落していくような生き方を止める事ができなくなっていた。