薄明光線

エッセイテイストな読み物。週一くらいの頻度で更新します。僕の話、時々僕ではない誰かの話。ささやかな楽しみにしてもらえたら幸いです。

島田紳助はあの頃に戻れるなら10億でも出すと言っていた。

年末年始という事もあり、この頃は地元の街に戻る事が多かった。

仕事終わりに人と会う約束をし、職場からのアクセスの良さから、普段は阪急を利用しているところを今回はJRの駅で待ち合わせたのだが、某大学の新キャンパスとの提携もあり駅が大きく改装されていて、昔懐かしむ所は全くと言っていい程に無くなってしまっていた。

何か特別語るほど辛い思い出は無いはずなのだが、そういったノスタルジーを感じずにできた事にホッとしたのも束の間、駅から少し離れると昔懐かしい我が故郷の景色であった。

 


最近は古い友人達と連絡を取り合う事もさっぱり辞めてしまったし、流行りのSNSもしないタチの為、皆々が今どこでどの様にしているかもさっぱりわからなかった。

目に見える景色は変わらないのに、この街に残っている友人はどれだけいるのだろうと思うと、寂しい気持ちが大きくなってしまうのだが、それとは矛盾した気持ちもあり、居心地が悪かった。

 


かつては友人達を愛していたし、憧れていた。

新卒の年齢になるかという頃に、大学で経営学を専攻している友人と同窓会で話した時の話だ。中学生の時にはスラッと長身で、一緒にテレビゲームの話ばかりしていた友人が、私腹を肥やしたどこぞの無能社長の様に恰幅よくなった上に、勉学と並行して経営している学習塾が成功し調子づいていた。彼の口から出てくる、いかにもビジネスマンらしい金の卑しい臭いがする単語の数々や、すでに競争社会において勝者となったかの様な口ぶりを聞いていると嫌気がさし、それからというもの連絡を取っていない。

 


自身も三十路になり、それ相応の歳だ。

そんなビジネスマン面の連中は倍以上に増えただろう。顔を合わせる機会があっても、おそらくどこかで聞いた様な会社や伴侶の愚痴が飛び交い、かつて憧れていた姿を失っているのだろうと考えると、できれば一生顔を合わせずに美しい思い出のままにしておきたいと思うのだ。

 


できれば誰とも顔を合わさずにこの街を後にしたいと思い、予定が終わった後は早々に帰宅した。

 


僕が会いたいのは今の友人達ではなく、当時のままの彼らなのだ。そんな無茶な願いに蓋をし続けるために、僕はこれからの人生においてもできるだけこの街に近寄らず、そうする為にできる限り今を生きるのだろう。