薄明光線

エッセイテイストな読み物。週一くらいの頻度で更新します。僕の話、時々僕ではない誰かの話。ささやかな楽しみにしてもらえたら幸いです。

チバよ、あの場所へ連れてってくれないか

10月31日、職場の話の合う仲間内で集まり焼鳥屋で酒を飲み交わした。良い肴となる話題もあり、飲み過ぎる事もなく心地が良い程度に酔っていた。

一番終電が早いものの帰宅に合わせて清算し店を出て、乗り換え駅である日本橋駅で解散した。

まっすぐ帰ることもできたが、次の電車までの時間があったので、酒の余韻を楽しみがてら一駅歩く事にした。

 


道頓堀周辺一帯はハロウィンで仮装した若者達でごった返し浮かれていた。

最早ビキニパンツじゃないかと思うくらいに丈の短いショートパンツの監獄長風の女を連れて歩く坂田銀時、タクシーの中から見送りのホストに手を振るロリータファッションの少女、迷惑そうな顔をした後ろのオヤジに全く気づきもせずに歩道を横に広がり歩く麦わらの一味。

この手のイベントに参加するのは昔から苦手だ。自分の地味さは理解しているし、こういうイベントの時の男というのは、より奇抜な格好をする事で女の気を引こうとする下心が透けて見えるため、自分の中にもあるであろうそういう男性的性質とでも言おうか、そういったみっともなさを外に向ける事が受け入れられないのだ。

 

酔い覚ましの散歩中にはiPhoneからミッシェル・ガン・エレファントを流した。

チバの叫びは力強く世界へ引き込み、アベのトレブリーなテレキャスターは身体中に染み渡り、ハイボールの余韻にマッチした。

 

"どこかに本当に果てというものがあるなら
一度くらいは行ってみたいと思う"

"あの場所へ連れてってくれないか"

"あの子がいれば宇宙の果てまでぶっ飛んでいける"

 

チバがシャウトする。僕は心の中で「チェスト!」と返事を返した。「チェスト」の意味は今もよく知らない。彼らの様なパブロックに浸るなら、きっとズブロッカでもキメるべきなのだろうが、仕事終わりのサラリーマンの僕にはハイボールの方がよく似合う。ミッシェルに浸るのも今だけでいい。薄汚い人間性が暴れ回る街を直視せずに済む。宇宙の果てに少しの間だけ連れて行ってもらえればそれでいい。

 


10分ばかしで隣の駅に着く事ができた。終電が近いというのにホームはやけに空いていたが、街のテンションにやられたのか、そういう行為があまりにも似合わない地味な低身長のカップルが熱いキスを交わしていて、悪い酔いがまわった。

 


チバよ、タバコ一本吸い終わる間で構わない。またあの場所へ連れてってくれないか。