薄明光線

エッセイテイストな読み物。週一くらいの頻度で更新します。僕の話、時々僕ではない誰かの話。ささやかな楽しみにしてもらえたら幸いです。

家(うち)に帰ろう

小学生の時に母から言われていた門限は"暗くなるまで"と、とても曖昧だった。

冬が迫り陽が落ちるのが急に早まるこの季節は、頃合いを読み違えて深夜と変わらぬような暗い道を帰らねばならない事があった。まだ10歳やそこらの頃だ。そんな時は不安な気持ちや心細い気持ちと、そして少しだけ、まだまだ見慣れない夜の景色にワクワクした気持ちを抱えて家路についた。

住宅街を進むと、家々から夕食の準備に包丁がまな板を叩く音、鍋物がグツグツ沸く音、テレビから流れる野球中継やアニメの音、バシャーンとタイルを叩く風呂のお湯の音、キャッキャと幼児がはしゃぐ声などが漏れ出していて、その音達に聞き耳を立てた。暗い道でひとりきりでも、生活音が近くにある事で、何が起きてもどこかに助けを求められると思える安心感があった。

 

暗い時間になってから家に着いても、母は何度も繰り返したりしない限り僕を叱りつける事はなかった。

家のドアを開け、夕食の準備で家にこもったモワッとしたあたたかい空気が顔や髪を撫でて外へ抜けていくと、家に帰ってきたと実感し安心できた。

 

夕食を済ませ、好きなアニメを見て、嫌々宿題をし、ひとっ風呂浴びてコーヒー牛乳を飲み、歯を磨いて、次の日の時間割や給食のメニューに一喜一憂しながら眠りにつく。きっとこの季節だと、その他にはクリスマスプレゼントは何を貰うかとか、冬休みの祖父母の家への帰省を楽しみにしていたのだろうか。愛おしい時間だった。