薄明光線

エッセイテイストな読み物。週一くらいの頻度で更新します。僕の話、時々僕ではない誰かの話。ささやかな楽しみにしてもらえたら幸いです。

サンタの夢を終える時

幼稚園生くらいだったと思う。僕はサンタクロースをあまり信じていなかった。

クリスマスイブの夜中に目が覚めた。うちの両親は父の仕事の都合で就寝が遅かったので、リビングのある方の襖の隙間から明かりが漏れていた。時計を目をやると朝まではまだまだ遠かった。せっかくなので寝たふりをして、親が枕元にプレゼントを置くところを確認してやろうと思った。

 


時計が長針と短針を重ねて日を跨ぎ少し経った頃に、父と思われる方の影が動き、玄関のドアを開けて外に出て行った。僕はその時に、両親が車のトランクにプレゼントを隠している事に気がつき、家中探してもプレゼントが見つからなかった事に合点がいった。

 


家に戻った父は特にコソコソとするわけでもなく僕と妹の枕元に、起こさないようにするためなのか気持ち少しだけ優しくプレゼントを置いて、襖を閉めて出て行った。

寝たふりをやめてプレゼントの方に目をやると、僕と全く同じ動きをしている妹と目が合い、お互いニヤリと笑った。

 


一応建前としてサンタクロースを演じてくれた両親を立てようと、片手でプレゼントの包みを担ぎ、誇らしげな笑顔を作り、気づかなかったフリをして妹と共にリビングへ出た。

目が覚めてしまったので包みを開けて遊んでもいいかと母に聞くと、「冬休みだし好きにしたらいい。」と言ってくれた。遊びたかったのではない。クリスマスの真実についてを母と話したかったのだ。

父と妹が寝静まってから、父がプレゼントを置くところをこっそり見た事を母に話してみる事にした。


「僕な、お父さんがプレゼント置くとこ見てん。」

こっそり見ていたいやらしさを知られる事に恥ずかしさもあり、照れながら母に投げかける。

「そうかー。バレてもうたかー。でもいずれわかる事やからなー。」

母は笑いながら、僕がこっそり起きていた事を知っていたかのように感じるわざとらしい言いまわしで答えた。

「なんで教えてくれへんかったん?」

「信じてた方がかわいいやろ?」

「そうかな。」

いつまでも子供扱いをし、おまけに男の僕をかわいいとは心外であった。

「だから友達とかにはまだ内緒やで。」

「なんで?」

「みんなのお父さんお母さんも、まだ子供に秘密にしときたい人もおるやろからな。できるだけ長いこと、自分の子供のかわいいとこ見たいやろ?」

自分の子供がいつまでも子供っぽいのは、親としては困りものではないのかとも思ったが、確かに他所の家族のそういった事情に立ち入るものではないなと、子供ながらにもそう感じたので「わかった。」とだけ母に答えた。

 

この母とのやりとりから僕は、得体の知れないお爺さんが勝手に家に入ってきてプレゼントを置いていくという嘘のクリスマスよりも、誰かが誰かの笑顔の為にサンタクロースになろうとしている本当のクリスマスの方が何百倍も素晴らしいと思ったのだ。

僕はこの母の言いつけを数年間は守っていたと思う。小学校の中学年くらいになってもサンタを本気で心待ちにするクラスの女子がいれば、"そうかそうか"と気持ちが誇らしかった。僕は秘密にされる側ではなく、大人達と同じ、秘密を守る側になったのだ。

 

今年のクリスマスも、大切な人の為へのプレゼントを選んだ。大人になった今、大人達がクリスマスについて子供達に隠しているもう一つの嘘に気がついた。クリスマスプレゼントは受け取る人よりも、贈る人の方が幸せだという事だ。