薄明光線

エッセイテイストな読み物。週一くらいの頻度で更新します。僕の話、時々僕ではない誰かの話。ささやかな楽しみにしてもらえたら幸いです。

春の散文

この冬に着ていたジャケットが少し暑苦しく感じ始める。この頃の夜風の香りは、桜景色で嗅いだ香りに似ていて、まだ桜が咲くにははやいというのにそれが桜の香りかのように錯覚してしまう。

繁華街では新型コロナウィルスの影響が本当に出ているのか疑ってしまうくらい、いつも通りにごった返し、華やかに着飾った若者たちが、ゆく先々の居酒屋の前でそれぞれ円陣を作り、別れを惜しみ泣き笑っていた。

 


彼らと同じ歳の頃、僕は自分の好きなジャンルの音楽しか良しとして聴くことができなかったが、今日はなんだかCoccoの歌声が心地良く感じられた。初めての事だった。

いつしか、違いを楽しめるようになったのだ。自分が好きか嫌いかなんかは差し置いて、良し悪しを考えてもいい事に気づいたのだ。いつからかはわからない。歳を取ることを良いと思えるのは、きっとこういう事を言うのだろう。

 


そんな事を思いながら、原付バイクを行くあても見つけられずフラフラと転がし、コンビニで買ったアイスコーヒーをすすりながら、いつまでも家に帰れずにいた。