薄明光線

エッセイテイストな読み物。週一くらいの頻度で更新します。僕の話、時々僕ではない誰かの話。ささやかな楽しみにしてもらえたら幸いです。

子猫に捧げる愛の詩

数年前、まだ定職にも就かずフラフラしていた頃の事、少しばかり割りの良い仕事に当たって金が余ったもんだから、酒場に入って女の肌を眺めてた。

女の気を引こうと、客の男たちが下手クソな歌を次々歌うもんだから、やかましくて、女達の肌の衰えを誤魔化せるようにか、照明は濃い目のオレンジで、タバコの煙が汚らしくモクモクと曇ってるのに、若い女の話し声が眩しく煌めいていて悲しい場所だった。

 


そんな中でも一際そんな場所が似合わない娘がいた。

話し方がおっとりしていて、あどけなくて、まだまだ子供っぽさの残る娘だったが、顔立ちがかわいらしさからか客の男たちから人気があり、しょっちゅう下手クソな歌の聴き役をさせられていた。

シャンパンなんかは開けてやれないものの、何故だかその娘とはしばらくの間、月に2、3回、ショートでカクテルを1杯だけ飲ませてやるような関係をダラダラと続けていた。

 


そんなあの娘は、突然パッタリ店に顔を出さなくなった。店からは正式に辞めたという話もなかった。

まだまだあどけなくて危なかっかしい小さなあの娘は、俺を含め男たちから注がれた酒や寂しさで溢れかえって壊れてしまったのかもしれないが、もう詫びる事すらできなくなった。

 

綺麗なあの娘が、もう二度とあんな汚いところで咲かなくてもいいくらい、可愛らしく美しく、女性としての人生を生きていて欲しいと今でも願う。

 

あの女の子はあの店で、赤ワインとジンジャーエールを割ったカクテルと同じ名前を名乗っていた。