薄明光線

エッセイテイストな読み物。週一くらいの頻度で更新します。僕の話、時々僕ではない誰かの話。ささやかな楽しみにしてもらえたら幸いです。

何かで一番になろうと、僕は誰の一番でもない

3年間想いを寄せていた人と二度と会えない関係になった。ビル街でさえ甘ったるい桜の香りが充満する、4月の頭の事だった。

 


それからというもの、仕事の成績が良くとも、仲間内で話題の中心になろうと、自身の事で多くの賞賛を得ようと心が満たされる事なく、ある思いに呪われた。

 


"何かで一番になろうと、僕は誰の一番でもない。"

 


女性関係に限らず、人間関係では人一倍傷ついてきた。期待を何度も裏切られてきた。その場しのぎで一夜を買う事さえ、さして抵抗がないくらいにはプライドがないし、それで肉体的な寂しさは解消できる。それでも尚、僕は恋愛から逃げる事ができない。

経済力でも趣味の充実感でも、肉欲でも満たされない、人は繋がりが無いと生きていけない事を僕は本能的にわかっているのかもしれない。

 


6年前の夏、家でひとり叔父が首を吊って亡くなった。

叔父は親族内で一番経済力があった事で、家の問題をひとり抱え込んでいた。

それが気がかりで伴侶を作る事ができずに50代を迎えていた。

自身の家族がいなかった事から、突発的に発生した死の感情に、思い留まる理由やきっかけが何も無かったのだろう。

僕と叔父は容姿、性格共によく似た男だった。

叔父の死相は安らかだった。それ故に余計にその死を身近に感じてしまった。

一人で生きていった場合の自分の未来を見せつけられているかのように感じた。

この未来回避をせねばならないような感情も、僕の人生に課せられた呪いなのかもしれない。

 


人は一人では生きていけない。